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福岡地方裁判所飯塚支部 昭和36年(む)224号 判決 1961年7月24日

被疑者 組坂博之

決  定

(被疑者 氏名略)

右の被疑者に対する道路運送法違反被疑事件につき、昭和三十六年七月二十四日福岡地方裁判所飯塚支部裁判官菅納一郎がした勾留請求却下の裁判に対し、検察官から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

本件準抗告の申立の理由は別紙準抗告申立書記載のとおりであるからここに引用する。

被疑者に対する道路運送法違反被疑事件につき検察官検事石田駿二郎より刑事訴訟法第六十条第一項第二号及び第三号に該当する事由があるものとして福岡地方裁判所飯塚支部裁判官に対し勾留請求がなされたところ、同裁判所裁判官菅納一郎は右法条に該当する理由がないとして本件勾留請求を却下したことは記録により明かなところである。ところで一件記録を検討するに、右事犯は所謂白タク組合に関する犯罪であつて、被疑者が検察官主張のような罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由の存在することは十分窺われるけれども、被疑者を釈放することにより関係人と通謀し、あるいは圧迫を加えて積極消極の罪証を隠滅する行為に出る虞れがあるとは認め難く、又被疑者は捜査官の取調に対し黙秘権を行使し、本件記録に徴すると被疑者の氏名年令住居は客観的に確定しているが、本件事案の性質に照らして逃亡し、又は逃亡すると疑うに足る相当な理由があるとは認められないのみならず、被疑者が黙秘権を行使することは憲法並びに刑事訴訟法によつて認められた被疑者の基本的人権であつて、検察官所論のように被疑者が黙秘権を行使したからといつてこれをもつて直ちに罪証を隠滅する虞れがあるものということはできない。

よつて本件準抗告の申立は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 桜木繁次 小出吉次 松永剛)

(準抗告申立書)(略)

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